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TPAC 2023 @Sevilla の参加レポート

本記事の内容は個人の見解によるものです。

この記事 is 何?

2023年10月11〜15日に開催された TPAC 2023 にオブザーバとして参加してきました。TPAC に参加するのは初めてだったので、初心者なりに体験したことや気づいたこと、今後初参加する方がどのように臨めば良いかについて記してみようと思います。

なお、議論内容等といった技術的なトピックについては登壇イベントや こちらの記事 のように別途紹介していきますので、本記事では対象外とします。

TPAC とは

TPAC は (Technical Plenary and Advisory Committee) は W3C1 が年に一度開催する全体会合です。W3C は様々な Web 技術を標準化するためにいくつもの W3C Group を抱えていますが、TPAC ではその内の多くの Group が1つの会場に集まって議論を行います。

W3C Group はそのミッションに応じて WG (Working Group)、IG (Interest Group)、CG (Community Group)、BG (Business Group) 等の様々な種類に分類されます。

今回はスペインのセビリアを会場とし、5日間の中で様々なセッションが行われました。

TPAC 2023 1日目のセッションスケジュール

1, 2, 4, 5日目では上図のように10以上の会議が並行して同時に実施され、各 Group の課題に関する議論が行われました。ちなみに、Meeting は各 Group 単体での開催に限らず、共通の課題を持った Group 同士の Joint Meeting という形式もあります。

また、3日目は唯一 Breakout session というものが行われる日程でした。Breakout session では各 Group ではなく参加者自身がセッションを主催し、日頃の開発の中で感じたブラウザの課題について問題を提起することができます。
各 Group の活動は TPAC だけには留まらず、普段からメーリングリストでやり取りを行ったり、各 Group の Github Repository で Issue を整理したり、必要に応じて別途 Meeting を開催することで標準化を行っていますので、多くの Group が一堂に会するという点に加え、この Breakout session が開催される点が最も特徴的な点だと思われます。

開催地は毎回アジア・北アメリカ・ヨーロッパの中から選ばれているようで、TPAC 2024アナハイムでの開催が予定されているようです。

会場の様子

セッション

TPAC 2023 はセビリアの新市街にある Meliã Sevilla Hotel というホテルの一角で開催されました。

Meliã Sevilla Hotel の外観

ホテルの地下と0階2、1階に用意された十数部屋の会議室の中で各セッションが行われます。 部屋によってレイアウトは異なりますが、基本的に会議室にはコの字型に机が並べられており、20人程度が座れるようになっています。この机には各 Group のメンバーとして参加している方々が座って議論を行います。それ以外にも会議室の壁に沿って椅子だけが並べられており、私のようなオブザーバ参加者が座ることができます。また、オンサイトの参加だけではなく Zoom を利用したリモート参加も可能です。

セッションが始まると、まず初めにファシリテータから W3C のポリシーや感染対策等に関する説明があり、続いて議題を持ち込んだメンバーのプレゼンテーションが行われます。各プレゼンテーションが終わると Zoom の挙手機能などを活用しながら質疑が行われ、各課題に対するアプローチを決定していきます。

昼食

昼になるとホテルのレストランに弁当が入った紙袋が並べられます。毎日2種類のメニューが用意されているので、好きな方を選んでピックアップします。

Lunch Box の紙袋

メニューの傾向は日によって少し違いましたが、パスタサラダとサンドイッチとトルティーヤが同時に出てくることもあり、日本人にとっては少し量が多いかもしれないです。

とある日の昼食の様子

ソーシャルイベント

3日目の Breakout Session が終わった後、ホテルのテラス会場で Reception が行われます。日中のセッション直後は他の参加者とゆっくり会話できる雰囲気ではないことが多かったので、お酒を片手に会話できる場が用意されているのは素晴らしいと思います。

Evening Reception の様子

他にも W3C Japan の方が開催してくださった日本人会員ディナーに参加させていただき、旧市街にある景色の良いレストランでアンダルシア料理をいただきました。日中は日本人をあまり見かけなかったのですが、このディナーでは30〜40人くらいの日本人に会うことができました。

また、ソーシャルイベントとは少し違うかもしれないですが、W3C Japan の方が突発で企画してくださった食事会にも加えていただいたりしました。

TPAC への臨み方

今回の筆者の経験をもとに、初めて参加される方向けに情報を残します。 よくある「〇〇の歩き方」よりも一歩前の準備段階からどのようにすべき (だった) か紹介したいと思います。

参加登録

まず、自分が関心のある Group を洗い出し、参加するセッションを決めておくことが大前提です。 TPAC の日程が近づくとサイトにスケジュールが貼り出されますので、参加するセッションを概ね決めてから参加登録します。

TPAC への参加登録は W3C 会員にしかできないため、事前に会員になる必要があります。

予習

TPAC に参加する際に重要な情報が5つあります。それぞれ確認すべきフェーズもセットで紹介します。 (私が WebRTC 関連の人間なので WebRTC WG を例にしながら紹介します)

Group ページ (登録時)

まず初めに、参加する Group のページを確認すべきです。Group は こちら から検索できます。 例えば、WebRTC WG は こちらのページ です。Group ページに移動したら初めに Charter を確認しておくと良いでしょう。Charter は日本語にすると憲章と訳せますが、その Group の現在のミッションや活動頻度、着手している仕様について紹介しています。

登録時のなるべく早い段階で目を通しておくと良いでしょう。

Specification (登録後 〜 TPAC 1週間前)

Charter や Group ページの Patent Policy status から、Group が管理している Specification (仕様) を確認できます。各 Group が現在どのような仕様策定に着手しているのか確認しておきましょう。 また、Specification のステージを確認しておくのも良いと思います。ステージは Specification のタイトル下に表示されています。 下図の例では W3C Recommendation がステージにあたります。

WebRTC Specification のタイトルとステージ

Specification のステージには主に以下の4つがあります。

  • WD: Working Draft、作業草案
  • CR: Candidate Recommendation、勧告候補
  • PR: Proposed Recommendation、勧告案
  • REC: W3C Recommendation、W3C勧告

Specification のステージの遷移

いずれの Specification も Working Draft から始まり、議論やレビューが進むと次のステージへと遷移していきます。例えば現在のステージが Working Draft であれば、初期ではユースケースについての議論が行われ、中期〜後期では実装における問題点についての議論が行われるだろうといった目星をつけることができます。

Github リポジトリ (登録後 〜 TPAC 1週間前)

W3CGithub を活用しています。各 Group は機能毎にリポジトリを立て、Issue や PR の中で議論を進めます。 例えば、webrtc-pc リポジトリでは WebRTC の Specification を管理しており、Issue を見れば現在進行中の問題を確認することができます。

自分が関心のある Group のリポジトリを一通り覗いておきましょう。

メーリスアーカイブ (登録後 〜 TPAC 1週間前)

W3C には メーリングリストのアーカイブサイト があります。どこにどんな情報があるのか少しわかりにくいですが、このサイトを探索することで Group の過去のやり取りを確認することができます。また、メールのやり取りだけではなく、過去の Meeting の資料や議事録も見つけることができるので、以前にどんな内容を議論していたのか確認することで TPAC の議題について理解しやすくなるはずです。

TPAC HP (TPAC 1週間前 〜 開催期間中)

TPAC が近づくと、TPAC HP のスケジュールから各 Group のページに飛べるようになります。 WebRTC のページ を見てみると Agenda の項目がありますが、ここに当日議論に使用されるスライドがアップされていきます。余裕があれば議論が始まる前に確認しておき、関連する Issue の内容を理解しておくと当日の議論内容がわかりやすくなります。

レポート作成

当日は議論を聞き、レポートを取ることになるでしょう。

参加するまで知らなかったのですが、TPAC では議論のアーカイブ動画を残すかどうかは完全に各 Group の判断に依ります。(議事録は残ります)
そのため、メモはなるべく細かく取っておくべきでしょう。セッション中に提供されているチャットや Zoom のトランスクライブ機能を活用してメモを取りながら議論を聞くのがおすすめです。

所感

初めての TPAC 参加だったのであまり理解が及んでいないところが多く、事前に雰囲気や当日の流れのイメージがあればもっとよかったと思いました。 (その経験からこの記事を書いたので、少しでも今後参加される方のお役に立てれば良いなと思います)

私は5日間を通して WebRTC 関連の7つのセッションに参加しましたが、それぞれの予習やレポーティングを並行して行いながらの参加になったので結構ヘトヘトになりました。

初回参加者は背景を理解できていないはずなので難しい場面はあると思いますが、それでも万全の準備をして臨みましょう!

tetter と TPAC 2023 の看板

(おまけ) セビリア

セビリアはスペインの南側に位置し、人口は約70万人とスペインの中で4番目の規模の都市です。日本からは乗り継ぎが発生するためとにかく遠く、移動に丸一日 (24h) 近く要します。たどり着くのは一苦労ですが、景色はきれいで食べ物も美味しく、筆者にとって初めてのヨーロッパだったので刺激的でした。

TPAC 会場から徒歩10分以内の場所にスペイン広場という観光地があったり、30分程度歩くとたどり着ける旧市街はどこを切り取っても絵になるような景色が広がっています。

会場近くのスペイン広場 (左) と 旧市街のバル (右)

食事は基本的に何でも美味しかったですが、特に印象に残ったのは生ハムでした。いくつかの飲食店で注文しましたが、どれもクオリティが高いのにリーズナブルでした。生ハムはバルだけではなくホテルの朝食でも毎朝用意されていたり、スーパーには原木が並んでいたりと、スペインの人々にとってはかなり身近なもののようです。
お土産に買えたらよかったですが、日本の検疫では肉製品の持ち込みを取り締まっているので持ち帰れなかったのが心残りでした。

バルで注文した生ハム (左) と スーパーの生ハム原木 (右)


  1. World Wide Web Consortium。Web 技術の標準化を行う団体。
  2. ヨーロッパでは配列と同じく0始まりでフロアをカウントする仕様です。